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2022.10.17

「デザイン」とは何か

アトリエM.A.R.は、主に住宅の意匠(デザイン)設計をやっています。「デザイン」というと、おしゃれなもの?コストが高い?ハードルが高そう?受ける印象はさまざま。。。この記事は、私が「デザイン」とは何か?を考えるときの、ひとつのベンチマークになっている出来事について。

大阪で過ごした時期、次のキャリアに向けてどのように舵を切ろうかなと思っていた頃に、大学時代の先輩が主催するデザインツアーが、京都の「聴竹居」で行われました。「聴竹居」は、国の重要文化財且つ日本の近代建築20選でもあり、藤井厚ニという大正から昭和にかけて活躍した建築家による優れた設計。そこで建築の見学だけでなく、柳原照弘(Teruhiro Yanagihara)さんの一日限りのインスタレーションを行うという、いま考えるとよく実現したなーと思う贅沢で粋な企画でした。

前段はさておき、大してデザイナーや建築家に明るくない私は、そのとき初めて柳原さんのことを知ります。柳原さんは、大阪を拠点にヨーロッパなど世界的に広く活躍されるクリエイティブデザイナーであり、プロダクト・インテリアデザインも手掛けられています。【参考】Teruhiro Yanagihara http://teruhiroyanagihara.jp/

常々おっしゃることの一つに、「デザインする状況をデザインする」ということがあります。依頼を掘り下げて、本当に必要なものは何かを追求すること。印象深いお話が2つありました。

  1. まだ駆け出しの頃に、美容専門学校から新校舎に入れる机や椅子の見積依頼があったそう。自分の仕事ではないと感じたけれども、一応話を聞いてみると、箱ものありきの考え方で、学び手の気持ちが入っていないように思われたそう。勝手にコンセプトを提案してみると、経営者側の深い理解もあり、既に着工していた工事を1年延期し、結果的に10階建ての専門学校の建物を設計することになりました。
  2. まさにそのとき取り組んでおられた有田焼のリブランディングのプロジェクトについて。(実際はもっと壮大なのですが、ここではぎゅっとショートストーリーに・・・。)まず、有田が抱える根本的な問題として、日本には100を超える陶磁器の産地があり、有田も出島からヨーロッパへ輸出していたことなど歴史的には名が知れていますが、バブル崩壊後に高価な器の卸先が減少、売上は当時の1/3に落ち込みました。顧客は一般の客層にシフトしそのパイを食い合うような状況(有田だけでも150を超える窯元があるという)。そんななか、窯元のひとつ「百田陶園」からPR等の依頼。柳原さんは、ひとつの窯元だけでなく、有田の町全体を底上げすべきだと考え、2016年の有田焼誕生400年の節目に合わせて、ヨーロッパを含む16組のデザイナーとともに、世界に向けてリブランディングを旗揚げ、自身もプロダクトデザイナーとして参加し、この1年後、ミラノサローネにて高く評価されることになりました。【参考】2016年のパイロットプロジェクト「1616arita」:https://1616arita.jp/2017年の本プロジェクト「arita 2016/」:http://www.2016arita.jp/?lang=ja、その後は柳原さんの手を離れて継続プロジェクト多数

それ以来、私は主に住宅設計に関わるなかで、「デザイン」とは、、

  1. ただ単に「造形が好ましい」ことではなく、建築の垣根を越えて、「本当に暮らしに大切なこと」を、「見つけて、整理して、方向を明るくすること」だと思っています。もしかしたらお施主さまが目指したい在り方は「住まいを建てる」ではないこともあるかもしれません。当然ながら、お施主さまにとっても潜在的であることを「見つける」というのはとても難しい。いま当たり前だと思っていることをいったんオフにして、いかに、いろんな角度からキャッチボールできるか。幅広い視点で、「本当に暮らしに大切なこと」に インスパイアできたら。
  2. もうひとつ最近思うのは、「ユーモラス」であることかなーと思っています。住宅も経済優先の考え方をすると、万人受けする方がよいでしょうし、長く暮らしていくうえである程度の普遍性は大切です。しかし、それにしても私は、それにしか使えない器とか、それ以外に役立たない道具とかに、なぜだか惹かれてしまいます。住まいも然り、キャラの立つ住まいには人間味があり、愛着が沸くから素敵なのかなと思います。奇をてらうわけではなく、お施主さまのスタイルを追求すると、素直に出てくる「ユーモラス」を大切にできたら。

最後に、、、建築設計事務所は、ハウスメーカーや工務店と違って、比較的長くお付き合いできること、オーダーメイドに対応できることが強みかなと思います。春の鮮やかなひらめき、夏の膨らむ夢、秋の深い洞察、冬の冴えわたる直観、季節ごとにお施主様の考えも違うかもしれません。(一応事業として成立する限り)できるだけお施主さまの思考の熟成のお手伝いができれば幸せです。

ご計画はいつの間にか始まっているもの。

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