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2023.10.23

アトリエMARのGX(グリーントラストフォーメーション)とは?

(1)GX(グリーントランスフォーメーション)とは?

 グリーントランスフォーメーション(以下、GX)とはカーボンニュートラルを実現するために必要な、経済社会システムの改革を目指す取組を指しています。
 ご存知の通り、化石燃料の使用は、温室効果ガスの排出を加速させ、地球温暖化などの気候変動も加速させる恐れがあります。

 なお、世界に目を向けるとカーボンニュートラル実現に向けた企業のGXニーズは高まっていて、二酸化炭素排出量の削減や地球温暖化対策に特化したClimate Techのグローバル市場は2021年の2兆円から2032年には22兆円に急成長する見込みです。
 GXは環境問題の課題解決だけでなく、自身の取り組みを進める中で、私たちを取り巻く社会を変えていく、持続可能な未来への成長戦略でもあります。

 経済学の観点でGXを見てみると、気候変動を規制したことによる経済的なベネフィットはどうなるでしょうか?

「(気候変動の抑制によるベネフィット※)ー(気候変動の抑制コスト)」をNPVで算出した場合、答えは、割引率6%を想定すると100年後の価値はほぼゼロになります。しかし割引率が低いと、将来の価値は現在の価値と近くなります(下図参照)。つまり、割引率の取り方だけで将来価値のウェイトが変わってくるのです。この投資回収のスタンスは、アメリカと欧米の気候変動に対する価値観の違いを表しています。100年後は深刻に考えなくても良い米国型(トランプ元大統領)と、将来の気候変動のベネフィットのために今から活動【投資】する欧米型(トゥンベリさん)とに分かれます。

 設備投資とは違った割引率の設定こそが、資本市場における企業の経済活動に直結するのです。GXに向けて、私たちにはWACCによる投資のハードルレートから解放された企業行動が求められている、と考えています。

※ベネフィットとは、災害による被災額や保険で想定した金額換算

図:割引率に応じた現在価値の違い

(2)アトリエMARが提唱するGXの3つの柱

 アトリエMARでは、住宅市場のGXを提唱しています。
 私たちの、考える住宅市場の問題は大きく3つあります。

①国産杉材の活用:安い木材の大量輸入による環境破壊と日本の森林機能低下

 日本の森林は国土の7割近くを占め、世界でも有数の森林国です。戦後、スギやヒノキなどの大規模な植林が行われたため、現在では森林面積の約40%が人工林で占められています。1960年に木材の輸入を自由化して以降、国内の林業は衰退し、当時87%だった木材自給率は、2000年頃には18.8%にまでに大きく減少しました(現在は36.2%まで戻してきている:下図参照)。当時から比べると木材価格も1/3程度へ大きく落ち込んでいます。

 人工林は、間伐や下草刈りなどの手入れが必要ですが、国産材の需要が低迷しているため、間伐が行われず、成長していない細い樹木が密なままで放置された状態になっています。そのため、木材資源を有効に利用できないばかりでなく、大雨による土砂崩れなどの災害に弱い山林を生み出しているのです。また、安い輸入木材に頼ってきたために、国内産業の縮退に繋がり、林業従事者の減少と給料低下の悪循環から抜け出せずにいます。林業従事者が国産材を差別化出来ないことも相まって、製材所による買い叩きや林野庁による補助金頼みの現状が続いています。このようなエコシステムを作り上げた要因の一つがハウスメーカー中心の住宅市場にあります。ハウスメーカーによるマーケティングと請負契約で、建築業界の重層構造や調達先の情報取得が難しくなることから、現状の課題を肌で感じる機会が失われてしまうのです。

 アトリエMARの「都市型ログハウス」には、従来の木造住宅の5倍(当社比)もの杉材を活用します。これらの杉材は全て国内で調達したものです。人工林を間伐・皆伐した後には次の世代に向けた植林をしているかどうかも調達先を決めるポイントです。次のプロジェクトでは、木材の乾燥を重油ではなくバイオエネルギーを活用している製材所から調達しようと考えています。一人一人の家づくりの「選択」が将来の環境問題への解決につながるのです。

図:林野庁 木材需要の動向

②オフグリッド+第一種換気システム:日本の亜熱帯化で「夏を旨とする」住宅の終焉

「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居(すまひ)は、堪へ難き事なり」。吉田兼好が「徒然草」で主張している「夏を旨とする家」とは、数寄屋造に代表される開放的な家のことを指しています。実際のところ開放的な家の住み心地はどうでしょうか。世界の主要都市で気温を比べると、夏の東京は温暖地の中でもかなり高温で熱帯気候のジャカルタに近い環境です(下図参照)。このような環境の中で夏場に窓を開けて寝る行為は、熱中症になる危険性もはらんでいます。また、エアコンを何台も一日中つけておくことは電気代がかさみます、ではどうしたら良いのでしょう。

 答えは、初めから夏に窓を開けなくても良い第一種換気システムを計画することをお勧めしています。また、換気システムだけではなく、高断熱+高気密な外皮の設計・施工ができないと第一種換気を導入したとしても、居室内に温度ムラができてしまいます。おすすめは、第一種換気システムを導入した上で、長期優良認定基準の断熱性能を満たし、かつ気密性能試験でC値が1.0㎠/㎡以下となるような施工ができれば夏に窓を開けなくても良い住環境が実現できます。

 実際のところ、都市型ログハウスのモデルハウスも窓や玄関に網戸を付けましたが、窓を開けての換気が可能な時期は5月と10月の2ヶ月程度で、あとのシーズンは締め切ったままです。エアコンは1台で全館空調を実現しています。電気代は、EcoFlow【エコフロー】社の家庭用蓄電システム(オフグリッド)を導入することで、夏場の電気代を1/6まで抑えることができました。私たちは、第一種換気システム+オフグリッドは、これからの時代のスタンダードになると考えています。

図:東京大学大学院前研究室

③リユースデザイン:古い住宅は資産でなく負債、撤去負担がもたらす空家問題の回避

 我が国では、取り壊される住宅の年齢は約30年とイギリスの77年やアメリカの55年に比べると極端に短くなっています。中古住宅は耐震性や断熱性などの住宅品質に不安があるなどの理由から、既存住宅を長持ちさせるよりも新築することが志向されてきた結果とも言えます。また、アメリカなどの諸外国と比べても既存住宅の資産における価値のほとんどは土地が占めています(下図参照)。木造住宅の減価償却期間は33年です。建物としての「価値」を維持・拡大する木造住宅を所有することは不可能なのでしょうか?

 いいえ、決してそのようなことはありません。長く使える住宅を設計・施工し適切なメンテナンスをしながら大事に使い続ければ、経年は劣化ではなく「味」になり、建物に新たな価値をもたらします。また、撤去するとしても「そもそも廃棄物と汚染を発生させない」再利用やリサイクルをしやすい設計や工法を選択するということが大事です。

 近年、サーキュラーエコノミー(Circular Economy)「循環型経済」という概念が注目されています(下図参照)。これまで廃棄されていた製品や原材料などを再利用することで、資源を循環させる新しい経済システムです。サーキュラーエコノミーでは、消費された製品を資源としてリサイクルします。その循環は「資源→製造→消費→再利用→製造」です。再利用しやすい設計にすることで、廃棄物を最小限に抑えて製品へと循環することができます。 

 アトリエMARの「都市型ログハウス」では、耐震性能が高くライフスタイルの変化にも対応しやすいシンプルな箱型のログハウスを提唱しています。もし、建物としての役割を終えても杉材は規格品のため、新たなログハウスへと再利用することが可能です。実際、東日本大震災で建設した仮設住宅のログを再利用して別の施設に転用・活用し続けている事例もあります。

※サーキュラーエコノミーに対して、従来の経済システムのことを、リニアエコノミー(Linear Economy)「直線型経済」と言います。リニアエコノミーは「資源→製造→消費→廃棄」という一方向のみの流れで、最終的に大量の廃棄物を生み出してしまいます。

図:国交省住宅局 住宅資産構成の日米比較
図:経済産業省 サーキュラーエコノミーの概念図

(3)GXの取組が広がるために必要なこと


 GXは社会構造が変わることがゴールです。

 社会構造が変わるためには、一人一人の意識や行動が変わる必要があります。

 住宅などの購入においては、建設コストだけではなく、どのような材料が使われているのか、運用におけるランニングコストや撤去時の社会負担なども考えた、一人一人の選択が重要だと考えています。

ご計画はいつの間にか始まっているもの。

ちょっとした疑問やご不安、
まだ遠く将来の夢、
まずはお聞かせください。