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私たちの実績

ディジェスティフを楽しむ家   

「House in Mandai」

​立地は、大阪府内でも閑静で上品な住宅地として定評のある帝塚山にあり、歴史的建造物や名門の学校、由緒あるお屋敷等が多く、歴史の蓄積が感じられ、万代池公園等の自然豊かな側面もあり、全体としてゆったりと風格のある佇まいが印象的なエリアである。

施主は、公私ともに奏功され第2の人生へ歩まれる世代で、現在の家族構成は、主にご夫婦と、息子さま、時々里帰りされる娘さま、かつて盲導犬として活躍していた大型犬のセレスタくん(以下、セレくん。ゴールデンレトリバーとラブラドールのハーフ)である。日常的には、お料理好きな奥様がふるまう夕食後、ディジェスティフ(食後酒)の時間をとても大切にされており、休日にはご友人やご家族と、リビングやベランダでの会食やバーベキューを楽しまれていた。
 
今回の計画で最も求められたのは、ご夫婦とセレくんとの食後酒の和やかな時間、ご友人やご家族との賑やかな時間をより豊かに叶えることであった。そこで、様々なシーンに空間がちょうどよくフィットし、且つ彩りを与え、今後のお2人の人生で起こり得る新しいシーンをも受け止めることのできる包容力のある計画としたいと考えた。
 
敷地形状は、南面に間口を開き、やや奥行きのある整形の立地である。
1階は車が3台収容できるようピロティとし、2階はゲストを想定したリビング・ダイニングやデッキのあるエリア、3階はプライベートな寝室等のエリアとした。
外観は、3層ごとにボリュームの押し出し感や素材の変化によって、街に対してリズムをもたらしながら、帝塚山というエリアにふさわしくあるよう、総じて風格に配慮した意匠とした。
また、2階のリビング・ダイニングやデッキで、のびのびとお暮らしになることを想定し、開口の大きさや配置等については周辺の視線からは閉じた印象としているが、採光や通風については、道路に面した南面とともに北側の私道による空間的なゆとりも活かしながら、南北に通り抜ける心地よい風や、南に大きく開いたデッキや内部にくり抜かれた大きな吹抜によって、明るい陽光を感じられる計画とした。
 
空間構成と動線計画については、1階は、主に駐車場3台のスペースであり、南面の門扉とアプローチを抜けた建物奥に、玄関とシューズクローゼットを計画し、階段又はエレベーターで上層階にアクセスする。玄関のホールではちょっとした商談が行えるスペースの想定、玄関廻りにはお散歩前のスムーズな身支度や足洗い等に使い勝手が良いよう計画した。また、玄関には、足元に小窓設け、ピロティの陰影と室内を繋ぐ柔らかな明かりとして計画した。
 
2階は、ゲストを想定したエリアとして、南面には間口いっぱいに可能な限り奥行きのあるデッキ、ほぼ正方形で広々と使い勝手の良いリビング・ダイニングを配置した。
リビングスペースのソファの配置は、最も心地よく過ごせる場所として計画した。南北へのゆったりとした抜け感、採光、植栽の景色、窓際の陽だまりを楽しみながら、うたた寝にもちょうど良い。あたたかい場所が好きなセレくんにも、気に入ってもらえると嬉しい。
 
階段とリビング・ダイニングの間には、前室という小さなスペースがあり、その上方は3階へ大きく吹き抜けており、北側に設けた大きな窓からは、吹抜の壁にバウンドした柔らかで安定した光が降り注ぐ。ゲストが玄関から階段で2階へ上がる際に、次第に視界が明るくなり、突如として水平方向、上方向にすっと視線が抜け、ドラマティックな体験となるよう想定した。
 
日常的なお2人でのお過ごし方として、前室は小さなダイニングルームとして位置付けているが、このスペースは今後の色々な使われ方も許容する余白でもある。大勢で集まる際には、キッチン、ダイニングスペース、デッキは、一体的な使い方ができるようまとまりのある配置とし、ゲストが個々に、前室やデッキ、リビングスペースに居場所を持てるよう想定している。
 
また、奥様が多くの時間をお過ごしになるキッチンとパントリーは、快適な使い勝手とするため、特に奥様のこだわりが詰まっている。そのため2階の動線の中心は、キッチンであり、諸室に機能的に繋がる計画としている。キッチンは、料理に集中されたいという思いから独立型とし、キッチン台・背面棚・冷蔵庫・調味料小棚等は連動的なシーンを想定して配置し、キッチン台を通常より少し高めに設定する等の細かな寸法調整を行った。パントリーは、奥様が簡単な身支度やお着物の修繕をされること、収納のボリュームなどを詳細に想定して計画した。その他、日々のお掃除やゲストの準備が容易となるよう、リビング・ダイニングの小物類の収納やキッチンのゴミや道具類の収納、廊下寸法等に配慮した。
 
3階は、主寝室と水回り、大きなウォークインクローゼット、そして成人された2人のお子様方が滞在されるお部屋から構成される。プライベート性に配慮し、ご夫婦お2人の生活スペースは南面奥に配置した。セレくんがお2人の居場所を行ったり来たり出来るよう、生活動線をコンパクトにまとめた。
主寝室は、控えめながらも朝日が差し込み、夕方には万代公園の方向へ視界が開けるよう開口の配置を調整しており、2階とはまた異なる気分を楽しめるよう計画している。
 
構造設計においては、リビングルームに柱のない大空間を実現すること、駐車場の柱径も極力細くすること等から鉄骨造を採用し、全体として、安全性を担保しつつ、意匠やコストにも配慮した。
3階の天井梁をなくし、屋根梁と兼用するとともに、折半屋根とすることで、傾斜を抑える計画とした。デッキ部分はキャンチ梁とすることで、柱の本数を減らし、アプローチ部分の自由度も高めた。また、1階の天井の懐には、部分的に空調設備や電動シャッター等で高さが必要ではある一方、無駄な空間ができないよう工夫する必要があった。そこで、梁の組み方、それに付随して、特にデッキ周辺の意匠(門扉、窓サッシ等)を何度も練り直し整合性を図った。
 
特筆する設備としては、大きな吹抜があることから全館空調や床暖房を採用、将来の備えとしてエレベーターを設置、防犯にも配慮した。総じてメンテナンスの少ない計画としている。
照明計画については、主にLEDを採用し、2階のリビング・ダイニングは、様々なシーンに対応できるよう計画、2・3階の吹抜部分では少し遊びのある計画としている。
 
仕上げ等については、2階ゲストエリアと3階プライベートエリアでのメリハリのある素材選定が求められた。2階ゲストエリアでもある、リビング・ダイニングとデッキについては、エレガントで遊び心を秘め、永く楽しめるよう本物志向で手触り感のある空間を目指した。床はタイル貼りを選定し、内外がひとまとまりの一体的な空間と見えるよう計画した。壁は漆喰の柔らかなベースに、アクセントとしてタイルや木目が美しい壁一面の大きな棚を計画。タイルは、セレくんの足を労わりながら、落ちた抜け毛があまり目立たないよう配慮して選定を行っている。3階プライベートエリアについては、壁は吸湿性のあるクロスを選定する等、コストを抑えつつも居住性に配慮する計画とした。
 
造園計画については、1階に本建物と近隣建物の間の小さなスペースに植栽を行い、殺風景となりがちなガレージを、ゲストを招くアプローチ空間とした。また、その植栽が、エントランス扉のスリットから少し見えることで、建物内に入るまでの期待感も演出している。
 
本件は、設計者にとって、お施主さまご夫妻がセレくん、ご家族やご友人とともに、食後酒や会食を楽しまれる姿がありありと目に浮かび、とても素敵な気持ちにさせられる時間だった。そして、お2人にとって、この住宅がこれからの人生のステージにおいてさらなる可能性を育む場所となり、末永く受け継がれていく場所であってほしいと願う。

〈概要〉
敷地面積|129.52 ㎡
延床面積|260.13 ㎡ (+テラス部分:13.10 ㎡)
1階床面積|98.38 ㎡(内ガレージ等部分:70.97 ㎡)
2階床面積|85.79 ㎡
3階床面積|75.96 ㎡
所在地|大阪府大阪市
クライアント|2人家族+セレくん
基本設計|arbol、
梅﨑裕子 
実施設計|arbol、梅﨑裕子
現場監理|arbol、
横田言芳
施工|株式会社コハツ
造園|荻野寿也景観設計

空調|ジェイベック
照明|モデュレックス
写真|下村康典

ご計画はいつの間にか始まっているもの。

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