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2025.04.07

竣工後の省エネ・温熱環境性能UP!に取り組む

この記事の目次

(1)住宅の空調設備とセンシング(計測)
(2)具体的な取り組み事例
(3)まとめ
(4)余談:学会誌に見る近年の動向

(1)住宅の空調設備とセンシング(計測)

日本ではどちらかというと建築といえば「設計」と「施工」に重点が置かれており、竣工後、建物はそれでプロジェクトは終了という傾向。しかし、竣工後も建築の物語は続き、経年変化とともに、「調整・最適化」を行う必要がある。

住宅の場合で想像しやすいのは、壁紙が古くなって取り替える、ベランダを増築する、エアコン壊れて修理するなど思い当たる。さらに細かく言えば、住まい手がエアコンの風量をリモコンで変更するのも「調整」の一つだと思う。

何が言いたいかというと、意匠設計や構造設計に関わることは比較的変化が緩やかではあるが、設備設計(特に熱や空気)に関わることは日々ダイナミックに環境が変化するため、それをあらかじめ設計に織り込んで、竣工後にもお施主様とともに気を配っていきたいと考えている。

さらに、建物には減価償却という考え方もあることから、経年とともに少しずつ劣化していく。つまり、一般的には、建物の熱や空気といった省エネ性能も竣工後がピークでその後はだんだんと落ちていくと考えると思うが、実は必ずしもそうではなくて、竣工後の「調整・最適化」で省エネ・温熱環境性能をより良くしてあげることができる

竣工後の「調整」でより良くなるのはなぜか?なぜならば、設計時にはその建物を使用していないのでわからない使用状況(パラメーター)がたくさんあるからだ。竣工後の計測や分析で、以下の特に③、時には②を「調整」してあげて、竣工後も快適・省エネな温熱環境づくりができればと考えている。

①温熱環境のコンセプト:外装・断熱計画・建物構成」たとえば、日射の角度から庇の出幅を決めると、太陽の角度は変わらないのでバッチリ計画通り自然採光は入ってくるし、それを保温するための外装・断熱計画・建物構成を行えば決まってくる。

②ベーシックな温熱環境:設備計画」空気の流れを考慮した位置にエアコンを設置すればはほぼ決まってくる。

③マルチな温熱環境:使用者の感覚」しかし中の人の活動状況(大勢で食事会をしているのか、一人で昼寝をしているのか)でそれぞれの人が欲しい温熱環境は変わってくる。

(2)具体的な取り組み事例

ここに、2世帯住宅がある。ほぼ同じ温熱環境性能を持つが、それぞれの世帯で、採光の考え方が異なる。冬の温熱環境について検討した。
A区画(図面左):南西採光で、冬は午後の強い日射を取り込む+壁掛けエアコンを稼働
B区画(図面右):南東採光で、冬は壁掛けエアコンを稼働

冬の連続した晴れの日に、エアコンの温度を20°に設定し24時間稼働した結果、以下のことが分かった。
①日射を積極的に取り込む環境下の9:00-15:00において、A区画の方が顕著な室温上昇効果があった。(平均室温上昇 A:5.3℃、B:1.2℃)
②A区画は、同じエアコンの温度設定にもかかわらず、室温は常時高く保たれた。(平均室温 A:23.0℃、 B:19.3℃ )

このことから、
・A区画:日中はエアコンを稼働させる必要がないことが分かった
・B区画:住まい手の体感としてもやや肌寒いため、エアコンの設定温度を20°→22°に引き上げた

さらに、
B区画については続きがあり、竣工時に見送った1階のエアコンを、1年後に設置した。1階の温熱環境の考え方として竣工時にはホットカーペットと炬燵の生活スタイルで様子を見ることとしたが、冬を一度超えてみて、寒さが厳しい冬の1ヶ月程度においてはやはりエアコンが必要という結論となった。設計・施工時に配管だけは終えていたので、設置は家電量販店で安価に済ませることができた。このように、竣工時の多大なコストを抑え、住まい始めてから「調整・最適化」できるようにしておくことが理想だと考えている。

1階にエアコンが設置されたことで、夏はもとより2階のみ稼働で吹き抜けを介した下降冷気で1階も涼しく、冬は1階のみ稼働させ上昇気流で2階も暖かく、より効率的で安定した温熱環境となった。

(3)まとめ

①温熱環境のコンセプト:外装・断熱計画・建物構成」→「調整・最適化」なし
A区画・B区画も共通:杉の無垢材や木質系断熱材吹き込み・アルミ樹脂複層ガラスサッシによる高気密高断熱(長期優良住宅認定、気密測定結果C値0.8)、壁掛けエアコン、吹き抜けによる空気循環
A区画:南西採光
B区画:南東採光

②ベーシックな温熱環境:設備計画」→「調整・最適化」あり
A区画:2階壁掛けエアコン
B区画:2階壁掛けエアコン、1階の壁掛けエアコンを追加

③マルチな温熱環境:使用者の感覚」→「調整・最適化」あり
A区画:冬季、日射が見込める日はエアコンは夜間のみの稼働でも良い
B区画:冬季、2階→1階のエアコンを稼働、安定させるには24時間稼働推奨

(4)余談:学会誌に見る近年の動向

2024年建築雑誌11月号に、建築設備の第一人者の赤司泰義先生の記事があったのでちょっと勉強してみた。(赤司先生は私が九州大学在学中に人間環境学研究院教授でしたが、2013年以降は東京大学の工学系研究科建築学専攻教授でいらっしゃるようです。)以下、図表などの参考:建築雑誌2024年11月号より抜粋

ーコミッショニング・プロセスで建築設備を考える

コミッショニング・プロセスとは、目標に向けて設備システムを設計→施工→運用という流れの中での、「質」を管理するためのプロセス。

設計時には決められないシステム制御に関するパラメータがある。使い始めてからの状況に合わせてシステム制御のチューニングや最適化が大切。

このプロセスでは、コミッショニング・マネジメントチームを施主が雇用し、そのチームが施主の代理人且つ第三者的な視点を持って、プロジェクト進捗管理を担う。一般的な工事では、施主・設計・施工者でプロジェクトを行うのが一般的だが、そのほかに施主側に立って施主の代わりにアドバイスする立ち位置の人間がいるイメージ。(日本ではあまりこのプロセス自体が普及していない)

Fig.1
建築物の竣工後10年のエネルギー消費量を調査。竣工直後のエネルギー消費量から40%削減している。
特に効果の高かった事例を掲載しているものの、適切なシステム制御のチューニングや最適化の継続的な実施(PDCA)により省エネ性能が向上するということが示されている。

具体的にはどうするかというと、ワーストケースを想定して、設備システムを能力的に余裕を持って設計・施工しておいて、実際に使い始めてから実態に合わせていく。

しかしこの「能力的に余裕を持って」というところ、お金の問題が大きく関わるのは想像に難くない。最初の「投資コスト」その後の「調整・最適化」や「更新コスト」にどのように折り合いをつけるか。一般的には安くて容量の大きなエアコンをつけがちだが、大きな施設になる程そういう単純な話でもないので、設備の技術者の力が必要。このプライスをあらかじめ施主に実感・納得してもらうことは難しいのだが、設計料に組み込んでいただけるよう提案するのも、私たち意匠設計社の役割であると考えている。

ーIoT とCPSの基本概念

IoTとCPSってよく言われるけどなんだっけ・・・。

Fig.2
IoT:Internet of Connected Things、あらゆる「モノ」がインターネットに接続され、情報を交換し、相互に利活用される環境を作ろう!ということ。以下、順番に環境が広がっていくイメージ。レベル1人工物や物 → レベル2人や生物 → レベル3データやプロセス → レベル4あらゆるモノ。

Fig.3
CPS:Internet of Controlled Things、コントロールされている「モノ」とそのサービス。先ほどの竣工後に建築設備を「調整・最適化」はこのこと。以下、順番にサービスが高度化するイメージ。

レベル0センシング(計測)・・・状況を認識(キャプチャリング)する。あらゆるものを実空間で計測し、サイバー空間に入れて処理(収集・流通・蓄積・分析・解析・予測)し、計測をぐるぐる繰り返す(サイバーフィジカルループ)。さらにこれが、機器の計測数値だけでなく、人の体感温度(暑がり、寒がり)や満足度などユーザーの状況まで認識しようとするとなかなか難しい。

レベル1・・・可視化(サイエンティフィック・ビジュアライゼーション)。直感的にユーザーが理解し、気づきを高め、行動を変えてもらうことが目的。

レベル2・・・最適化。設備システムの最適制御、設備の最適配置を行う。

レベル3・・・予測化。これがなかなか難しく、例えていうならば、交通渋滞の予測を出して皆が空いている方に向かうと意味がない。全体が極端に変化せず、どのように最適化するのか。難しいところ。

Fig.4
レベル1の、可視化のイメージ。フロアの温度分布に色をつけたもの。このようなビジュアルを使用者に提供できると、使用者の「気づき」も生まれ変わるかもしれない。もしもこれがオフィスだった場合、設備機器を調整するというよりは働く人がフレキシブルに仕事の場所、コミュニケーションの場所を変える、それがクリエイティビティに影響するということも十分考えられる。

繰り返しになるが、このプライスをあらかじめ施主に実感・納得してもらうことは難しい。今のところ日本ではほとんど認知されておらず、あまりビジネスとして成立していない・・・。コストカットのターゲットとされてしまいがち。このような検討は住宅の規模よりも、1000㎡以上の規模の施設により必要だと考える。このような規模であっても、弊社には、設備計画の専門技術者と企画段階から取り組み、初期投資・運用コスト・更新費用を比較しながら、施主様により踏み込んだ設備計画を検討いただく体制がある。ご興味があれば、まずはぜひ提案させて頂けたらと考えています。

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